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《コナン・ザ・コナン》ロバート・E・ハワードの世界
ロバート・E・ハワード
英雄列伝


ブラン・マク・モーン Bran Mak Morn

【ジャンル】ヒロイック・ファンタジー

【解説】

BRAN MAK MORN
(Dell Books, 1969)
 太古の昔より生き存えて来た古き種族……自らを〈名もなき一族〉と呼ぶ彼らを、他民族は〈ピクト族〉と呼んだ。敵対する種族たちが生まれては歴史に消えていくなか、脈々と存続してきた闇の一族ピクト――。いま西暦三世紀の初頭、彼らの前に立ち塞がるのは最強最後の敵、ローマ帝国。遂にピクト族も、闇の中へと葬りさられてしまうのか……。ピクト族存亡の鍵を握る人物こそ、一族が最後の望みを託して王へと戴いたブラン・マク・モーンその人であった。

 獰猛をもって知られぬピクト一族のなかでも、抜きん出た強靭な肉体、精神を備えた蛮王ブラン・マク・モーンが、宿敵ローマ帝国、人外の化け物を相手に繰り広げる冒険談!

 キング・カルの解説文の中で、私は「純粋な意味で「ヒロイック・ファンタジー」と呼べるのは、ハワードのシリーズの中ではコナンとこのカルだけではないかと思える」と書いた。そこでブラン・マク・モーンを除外したのは、ブラン物には若干歴史小説的な要素が漂っているというのが理由である。すなわち「異世界を舞台にする」というヒロイック・ファンタジーの定石からは外れているのだ。それを除けば、このブラン・シリーズもまた「ヒロイック・ファンタジーそのもの」と呼べるかもしれない。キャラクターのインパクトの強さで言えば、変に思い悩む癖があるカルよりは、よほどブランの方がコナンに近い。

 しかし、ブラン・シリーズは、シリーズと呼ぶにはあまりに作品数が少ないのも事実。関連作品、未完作、詩を除けば、たったの三作品しか満足な作品が残されていない。そのうち、ブラン初登場となる "Men of the Shadows" もまた、そのほとんどは長老が語るピクト族の歴史に費やされており、これまた豪快な冒険談を期待すると肩透かしを食う。すなわち、残される作品は "Kings of the Night""Worms of the Earth" の二作品しか残らないという始末。

 それでもこのブランがコナン、カル、ソロモン・ケインと並び称されているのは、上記作品の出来映えがそれだけ素晴しいということと、またブランのキャタクターの印象がそれだけ強烈だということだろう。


WORMS OF THE EARTH
(Ace Books, 1979)
 主要二作品のうち、"Worms of the Earth" は「大地の妖蛆」のタイトルで、『スカル・フェイス』『黒の碑』他、日本でも数回翻訳されるほど扱いに恵まれているが、なるほどハワード全作品を通しても上位にランクされる力作である。文庫の『黒の碑』は今でも入手可能かと思うので、ぜひ御覧になってほしい。

 一方の"Kings of the Night"「闇の帝王」も、注目すべき作品といえる。これは「Kings」の言葉が象徴するように、二人の王が活躍する物語。ブランともう一人……なんと、ヴァルーシア王カルが登場するのだ。

 まさにムアコックのエターナル・チャンピオン・サイクルばりのヒーロー・クロスオーバー。よってこの作品はブラン物であると同時にカル物でもあるのだが、「ブランが魔道の助けを借りて、過去の英雄カルを招喚する」という構成上、中心となるのはブラン世界であり、一般的にはブラン・シリーズと見なされる。カルにしてみれば、ブルールやカ・ヌーはじめ、ピクト族は己をサポートしてくれる大事な種族である。そのピクト族の遠い末裔たちのため、最初は戸惑いながらも共にローマ帝国に立ち向かう……というストーリー。

 シリーズ全体を通して、どことなく淀んだ暗さを味わえるのが特徴である。それはピクトという滅びゆく運命の一族の王として、巨大な敵ローマに対抗するとの舞台設定のためかもしれない。そのため、ブランにはどこか自暴自棄的な激しさを感じるのだ。ハワードの四大ヒーローを評して、「コナンは本能の男、カルは思索の男、ケインは信仰の男、ブランは破滅の男」などと言われたこともあったように思う。なるほど言い得て妙かもしれない。

 ピクト族/ピクト人は現実の伝説に残る種族であり、ハワードが幼い頃からお気に入りだったらしい。ハワードの場合は「史上もっとも獰猛、野蛮な種族」として、このピクト族を描くことが多かった。コナン・シリーズにも、蛮勇コナンをさえ上回る未開の蛮族として、このピクト族が印象的に登場することは、皆さん良く御存知だろう。

 コナン・シリーズのピクト族が文字どおり「未開の蛮族」と描かれているのに対し、カル・シリーズやブラン・シリーズに登場するピクトは、やはり蛮族ではあるものの、それなりに知的な種族と描かれているのは注意すべき相違点である。これらのシリーズ以外にも、ハワードはピクトを扱った作品を多く残している。特に印象強いのは、更に別のヒーロー、ブラック・ターロウの一作品 "The Dark Man" で、この中では一種変わった形でブラン・マク・モーンが登場する。なんと、ここにもクロスオーバー作品があった!

 キング・カルの物語がかなり強く映画『コナン・ザ・グレート』に影響している……と、カルの解説文で書いたが、ブラン物語からの引用らしきシーンもあったので最後にその話で締めくくろう。映画の中、奴隷の境地から脱走したコナンが、辺鄙な森で一人ひっそり暮らす薄汚れた不思議な女と出会い、情報を得るためにその女性と一夜を共にする……。これにそっくりのシーンが、"Worms of the Earth"「大地の妖蛆」に登場する。あの映画は単にコナンのみならず、ハワード・ヒーローものからの寄せ集めでもあったのだ。

【邦訳リスト】

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