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《コナン・ザ・コナン》ロバート・E・ハワードの世界
ロバート・E・ハワード
英雄列伝


船乗りデニス・ドーガン Sailor Dennis Dorgan

【ジャンル】ユーモラス・ボクシング小説

【解説】

THE INCREDIBLE ADVENTURES
OF DENNIS DORGAN

(Fax Collector's Editions, 1974)
 デニス・ドーガン……彼は商船〈パイソン/ニシキヘビ〉号の船乗りにして、戦いを求め、港から港へと渡り歩く素人ボクサーでもある。シンガポールから香港、上海と往く先々で、否応もなく戦いに巻き込まれるデニスは、今日もどこかの港で戦い続ける。ときにグローブを着け、ときに素手の拳で!

 ……と、この紹介文が、スティーブ・コスティガン・シリーズのそれとほとんど同じであることにお気づきでしょう。それも当然、このドーガン・シリーズは、コスティガン・シリーズから派生した姉妹作品である。

 もう少し詳しく説明しましょう。ハワードがアクション・ストーリーズ誌やファイト・ストーリーズ誌にコスティガン・シリーズを発表していた当時、よほどこの主人公が気に入ったのか、とても雑誌掲載が間に合わないほどに次から次へとシリーズ作品を書き上げていったそうです。出番を待つ原稿の山を見ているうち、ハワードにひとつのアイディアがひらめいた。「登場人物の名前だけ書き直して、別のシリーズとして他の出版社に売り込めばいいんじゃないか?」

 そのようにして生まれたのが、このドーガン・シリーズなのです。主人公の名前がコスティガンからドーガンへ、彼の乗り込む船の名前が〈シーガール〉号から〈パイソン〉号へ……その他、主要登場人物の名前が変更された。こうしたリライトは、作品を書き続けることで生計を立てていた当時のパルプ雑誌作家としては珍しくないことであった。更にこのドーガン・シリーズは、“パトリック・アーヴィン”のペンネームのもとに雑誌発表されたのである。

 こうした背景から考えれば、ドーガン/コスティガンの両シリーズは全く同じ雰囲気となってしかるべきなのだが、私が読んだ限りでは、両シリーズは微妙に異なる読後感を漂わす。ドーガン・シリーズでは、ボクシング色はやや薄められ、逆に冒険色、ユーモア色が強まっているように感じられるのだ。その謎を解くキーとなるのは、ドーガン・シリーズがマジック・カーペット・マガジン誌なる冒険パルプ雑誌に発表されたという点ではないだろうか。それに対してコスティガン・シリーズが発表されたのはボクシング雑誌が中心であったために、こうした違いが生じたのだろう。

 おそらくハワードが、シリーズ作品のうち、オリエンタル冒険色の強いもの、ユーモア色の強いものをピックアップしてドーガンものへとリライトしたか、単に登場人物の名前を変更するだけにとどまらず、一般冒険雑誌向けに娯楽色を強めてリライトしたか、このどちらかだろうと考えられる。コスティガン・シリーズの方こそが元祖であり、作品の量も圧倒的に多いにもかかわらず、いまだに小出版社からブックレット形式でしか単行本化されていないのに対し、こちらドーガン・シリーズはハードカバー、ペーパーバックと繰り返して発行されている。これも一般読者に与える娯楽度の差が原因と考えれば合点がいく。ハワードを愛するものとしては、それぞれのシリーズの、それぞれの特徴を、それぞれに味わえばよいとは思うが。

 冷静な目で評価すれば、確かにこのドーガン・シリーズ、娯楽性は高い。ハワードのユーモア小説に接したいと興味を持っている人に対しては、やはりエルキンス・シリーズとドーガン・シリーズ、このふたつに落ち着くでしょう。コスティガン・シリーズは、ややマニア向け。ただし、ドーガン、コスティガン両シリーズとも全作品を読み切ったわけではないので、はっきり言い切ることはできない。実際のところはこの両シリーズの差異はそれほど大きくないかもしれない。

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