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《コナン・ザ・コナン》ロバート・E・ハワードの世界
ロバート・E・ハワード
英雄列伝


船乗りスティーブ・コスティガン Sailor Steve Costigan

【ジャンル】ユーモラス・ボクシング小説

【解説】

ROBERT E. HOWARD'S
FIGHT MAGAZINE #1

(Necronomicon Press, 1990)
 スティーブ・コスティガン……彼は商船〈シーガール/海の乙女〉号の船乗りにして、戦いを求め、港から港へと渡り歩く素人ボクサーでもある。マニラから香港、上海、ホノルルと往く先々で、否応もなく戦いに巻き込まれるスティーブは、今日もグローブを手にリングに向かう!

 本コスティガン・シリーズはハワードが愛したボクシングを扱った小説であると同時に、意表を付いたユーモア小説として、ハワードのガイドブックなどには必ずといってよいほどその名が登場する。アメリカのハワード読者には、比較的有名なシリーズのようである。事実、このシリーズは1929年にファイト・ストーリーズ誌に初登場して以来、1934年頃まで同誌およびアクション・ストーリーズ誌、ジャック・デンプシーズ・ファイト・マガジン誌に続けざまに発表されている。1929年といえば、ちょうどハワードがウィアード・テールズ誌の中心作家になりはじめた時期。すなわち、本シリーズは決してWT誌で勝ち得た名声のおこぼれなどではない、ということだ。その筋から正当に評価を受けたシリーズと言えよう。

 正直に話せば、実はこのシリーズは本を取り寄せてはみたものの、ちゃんと読んだのはまだ1、2作しかないので、自分の中ではイメージが固まっていないのです。書誌/ガイドブックではもっぱら「ユーモラス・ボクシング小説」と紹介されているが、しかしドタバタ喜劇たるエルキンス・シリーズあたりと比べると、それほどストレートなユーモア小説ではないように感じられる。言ってみれば、「ハードボイルドならぬ、ハーフボイルド」という感じで、軽い笑いを誘う……という程度ではあった。

 むしろボクシング小説としての印象がかなり強い。純粋なボクシング小説とは違い、主人公はプロ選手ではなく、あくまでも素人ボクサーなのだが、しかしボクシング・シーンの書き込みは実に詳細をきわめている。上で紹介したように、このシリーズはボクシング専門のパルプ雑誌にも発表されているのだから、それも当然といえば当然か。まさに大のボクシング・ファンであったハワードの面目躍如といったところ。私自身も格闘技ファンであるため、そうしたファイト・シーンにも胸踊るものがあるが、しかし一般読者にとってはややしつこいかもしれない。

 とはいうものの、ご安心あれ。もちろんそんなボクシング・シーンのみならず、自らの意に反して事件に巻き込まれていき、それを腕っ節一本で切り抜ける爽快感は、ハワードらしさ満点ですので。ストーリー自体は、ちゃんと冒険物の体裁を取っているのです。

 エルキンス・シリーズ同様、このシリーズも一人称で語られている。ユーモア小説の場合は、その方が書いていても感情移入しやすいんでしょうか。というより、読み手側の感情移入のしやすさを考えてのことか? ……そうした気遣いも十分に有り得る。

 ハワードにはデニス・ドーガンを主人公にした同様のシリーズがある。これは単に本シリーズの登場人物の名前を置き換えただけのようでもあるが、どことなく異なった印象を感じないこともない。そのあたりについては、後発シリーズであるドーガンの紹介文の方で言及する。

 ところで、上で記した通りこのコスティガン・シリーズはハワード・ガイドブックや解説文でたびたび言及されているにもかかわらず、どの短編集にも収録されておらず、私はてっきり雑誌に掲載されたまま埋もれていたと思い込んでいた。常々「どこぞの出版社が、このシリーズを単行本にまとめてくれないだろうか」と、そんな思いを抱いていた。ところがなんと、ネクロノミコン・プレスなる小出版社が小冊子形式ながらも本シリーズを刊行していたのです。それを知ったときの嬉しさといったら――。

 ネクロノミコン・プレス版ROBERT E. HOWARD'S FIGHT STORIESは全8巻の予定になっており、現在第4巻まで発行済み。第5巻以降にはコスティガン・シリーズの残りの作品や、その他の埋もれたままになっているハワード・ボクシング作品を収録の予定。だが1996年で発行が止まっているのが残念。ネクロノミコン・プレス社はインタネットにページを開設しているので、改めてシリーズ再開要望のメールでも送ってみよう。余談になるが、このネクロノミコン・プレスはその名から想像される通り、ハワードの他にもH・P・ラヴクラフトやクラーク・アシュトン・スミスといったウィアード・テールズ系作家の作品集、書簡集、研究本を発行している貴重な出版社なのです。まさに“ミニ”アーカム・ハウス。

 

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