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《コナン・ザ・コナン》ロバート・E・ハワードの世界
ロバート・E・ハワード作品
オリジナル翻訳


THE DAUGHTER OF ERLIK KHAN by Robert E. Howard
エルリク・カーンの娘
 エル・ボラク・シリーズ

 《4》

 ゴードンは事実、トルコ人たちよりもこの土地の地理に詳しく、そのことは、微妙なバランスの上に成り立ったゴードンの支配力を強める結果となった。慎重な判断が必要となるたび、ゴードンが簡単な指示や命令をくだし、男たちはただちにそれに従っていった。

 ゴードンはできうる限り、一団が地平線に隠れるよう注意を払っていた。警戒心が強い遊牧民の監視の目をかいくぐり、百人もの集団の行軍を隠し通すのは並大抵のことではない。けれども、いま敵はここから遠く離れた場所をさまよっているはずで、我とヨルガンの間に存在するのは、唯一、前日遭遇したキャンプだけだとの可能性に賭けるしかない。

 だがその考えも、怪しいと思わざると得ない状況が生じた。ゴードンが前日、東へと馬を駆けたときには存在しなかった、新しい馬の足跡に遭遇したのだ。かなりの数の馬がこの地点を通過している。もしもキルギス人に見張られているとすれば、いつなんどき敵の急襲を受けるか知れたものではない。ゴードンは急かすように進行の速度を増すのであった。

 午後も遅くになって、やっとヤナギに覆われた小川の傍らにある〈オルドゥー〉を視界におさめる地点に到着する。キャンプの近くでは、放たれた馬が少年たちの世話を受けている。その向こうでは馬上の男たちが、良く育った草を食んでいる羊の群れを放牧させていた。

 

 ゴードンは、近くの尾根の背後、草が生い茂る空き地にトルコ人たちを潜ませると、ただ六人だけを引き連れ、谷間を見下ろす位置にある斜面に登り、巨石の上で腹這いになる。今、眼下の野営地は、その細部に渡り彼の知るところとなった。やがてゴードンが眉をひそめた。白いテントがどこにも見当たらないのだ。確かにイギリス人はここにいたはずだが、一体どこに姿を消してしまったのだろう。あるいはここの住人がついに本性をあらわにしてイギリス人を襲ったのやもしれぬし、あるいはイギリス人だけでヨルガンへの旅を再開したのやもしれぬ。

 トルコ人たちは、すぐにでも長年の宿敵を奇襲し、略奪の限りを尽くすものと信じて疑わなかっただけに、徐々に苛立ちが募ってきた様子。

「今なら、戦士の数ではおれたちに分がある」ウズン・ベッグが切り出した。「それに奴ら、なんの疑いもなく、ちりじりに散らばっていやがる。長い間、黒キルギスの土地を敵が襲撃することはなかったからな。残してきた仲間を呼んできて、すぐにも奇襲をかけようじゃねえか。あんた、おれたちに略奪を約束したのを忘れたわけじゃないだろうな」

「のっぺり顔の女やら、油っぽい尾の羊が、おまえの望みなのか?」とゴードンはあざけった。

「女なら、どんな顔だろうと拝む価値があるってもんだ」トルコ人は食い下がる。「確かに羊はたらふく食って、もううんざりだがよ。そんなものより、ここの犬野郎どもときたら、カシミールから来る商人へ支払うために、荷馬車いっぱいの黄金を運んでいるって話だ。なんでも〈エルリク・カーン山〉で掘り出されているそうじゃねえか」

 〈エルリク山〉の金鉱の噂は、以前ゴードンも耳にしたことがあった。そればかりか、黒キルギスで手に入れたと吹聴しながら、金の延べ棒をぞんざいに見せびらかしていた人間を見たこともある。しかし、今この時の関心事は、黄金などではないのだ。

「そんな子供だましのホラ話を信じているのか」というゴードン、実際この件については彼自身も半信半疑ではあったのだ。「おれが与える略奪は、もっと現実的なものだぞ。夢みたいな話を信じて、本物のお宝をふいにするつもりか? 判ったらさっさと仲間のところに戻って、もうしばらくあそこに隠れているよう命じるんだ。おれもすぐに戻る」

 これを聞いた男たちが疑いの目を向けているのに気付き、ゴードンは改めて言った。

「ではウズン・ベッグ、おまえ一人が戻って、おれの伝言を皆に伝えてくれ。残りの者は、おれと一緒にここに残るがいいさ」

 これで五人の男の膨れ上った疑念は消え去ったが、ウズン・ベッグだけは顎髭の中でぶつぶつと不平をこぼしながら大股で斜面をくだり、馬に乗って東へ駆け去っていった。一方、ゴードンと残された仲間もまた斜面の陰で馬に乗り、敵に見つからぬよう身を潜めながら、南西に大きく湾曲した尾根に沿って移動していく。

 尾根はやがて、ナイフのように切り立った薄い崖へと姿を変える。隣の尾根とこの崖との間には、ちょっとした切れ目が存在していたものの、良く伸びた草の茂みが、移動する男たちの姿をキャンプから隠すことに一役買っていた。〈オルドゥー〉からは一マイルほどくだったあたりか――。崖は小川へ向けながらかにつながっていた。

 新しい監視地点は、最初の尾根よりもかなり高い場所にあるようだ。尾根の頂きに到達するや、ゴードンは再び地面に腹這いになって、かつてはユセフ・カーンの所有物であった双眼鏡でキャンプの様子をうかがった。

 遊牧民たちは、いまだ敵の存在に気付いた様子はない。それから双眼鏡を東に向け、男たちを待機させた尾根のあたりをうかがってみるが、なるほど完璧なまでに姿を隠すことに成功している。ところがそこで、ゴードンは別のものを発見する。

 数マイルほど東に進んだあたりだろうか、ナイフのように空を切り裂く尾根の近くに、かすかな道筋が見て取れる。その筋を、黒い点の列が動いているのがゴードンの目に入ったのである。あまりに距離がありすぎて、性能の良い双眼鏡でさえ、その正体を明らかにするのは不可能だ。だが彼は知っていた、その黒点の正体を――馬を走らせる人間たち、しかもかなりの大人数である。

 急いで五人のトルコ人が待つ地点に戻ったゴードン、だが目撃したものについては一切説明せず、作業を続けた。尾根の後ろから出ていくや、野営地からは死角となっていることを確認してから川岸に馬を乗り入れた。このあたりは、ヨルガンに向かういくつかのルートが交差する地点だった。その場所で、ゴードンが探し求めるものを発見するまでに、長い時間はかからなかった。

 川岸の泥のうえに、馬の蹄鉄の跡に混じってヨーロッパ人が履くブーツの跡がくっきりと刻まれている。イギリス人たちがここを通り過ぎていった証拠だ。人馬の足跡は浅瀬を越えて、うねった平地を目指し西へと向かっていた。

 ゴードンの当惑は、一層強まった。彼の想像では、あのキャンプの部族民が攻撃もせずイギリス人を受け入れたのには、何か特別な理由があるはずだった。それゆえ、オルモンドたちは、ここからヨルガンへと向かう道中の護衛もキャンプの部族民に頼むのではないかとにらんでいたのだ。同じ部族とはいえさまざまな考えを持つ集団に分かれているが、侵入者に対しては普通、同じように敏感になっている。ひとつの部族から平和裡に受け入れられたからといって、別の部族に喉をかっ切られずに済むという保証はどこにもない。

 そもそも、この地域の遊牧民が西洋人に対して友好的な態度を取るなど、ゴードンはかつて聞いたことがない。にもかかわらず、事実としてイギリス人たちはあの〈オルドゥー〉で一夜を過ごし、今また歓迎されるのを確信するかのように、大胆にも奥地へと進んでいった。まったく、狂気の沙汰としか思えぬ行動だ。

 ゴードンがあれこれ思いを馳せていると、突然かなたでライフル銃を発砲するパチパチという音が響き、彼は首をもたげた。水しぶきを跳ね上げ小川を横切り、谷間から彼らの姿を隠していた斜面を駆け上がる。あとに従うトルコ人たちは早くもライフルのレバーを引き上げていた。斜面の頂きから見渡すと、遅い午後の下、ガラスのようなきらめきを発する光景が目に飛び込んできた。

 トルコ人たちが、キルギス人キャンプに攻撃を掛けているではないか。谷間を見下ろす斜面へこっそりと忍び寄り、そこから一気呵成、疾風と化した集団が谷を駆け下っている。奇襲攻撃はほとんど完璧に近い形で成功を収めたのである。羊飼いたちが次々と馬から撃ち落とされ、羊の群れはところかまわず散らばっていく。生き残った遊牧民たちは、テントと荷馬車で形づくった輪の中で、必死の抵抗戦を構えた。

 時代物の火縄式銃、弓矢、それにいくつかの近代的なライフル銃が、トルコ人からの攻撃に応戦している。だが相手の方は、速い動きで馬かけつつ鞍上から発砲し、さっと向きを変えるや再び射程圏外へと駆け去ってしまう。

 キルギス人たちもにわか作りの防御壁で守られているとはいえ、しかしそれだけでは雨あられと降り注ぐ鉛に対抗するには不十分で、次々と犠牲者が生まれていく。いくらかの乗り手を撃ち落としはするものの、トルコ人たちは攻撃の手をゆるめず、馬に一層の拍車を掛け、右に左に体を揺らしながら攻め続けるのだった。

 ゴードンは手綱を操り、谷間へ向け全速力で馬を走らせた。その手に半月刀がきらめいている。彼の追い求める敵の姿が消えた今となっては、当初の計画通りにキルギス人のキャンプを襲撃する意味はなくなった。だが、いくら大声で命令を発してみたところで、この距離では配下のトルコ人の耳には届かない。

 トルコ人たちが確認できたのは、ただ剣を手にしたゴードンが近づいてくる姿だけであり、彼らはそのゴードンの行動を誤解した。彼らはゴードンが突撃の指揮をとるつもりだと受け取り、大歓声で彼の到着を迎え受けるのだ。ゴードンと五人のトルコ人が斜面を駆け下ってくる姿はまた、キルギス人たちにも確認され、それを別動隊による側面からの攻撃と解釈したキルギス人キャンプは、新たな恐怖で大混乱に陥った。

 直ちに彼らは、すべての攻撃を新手の敵に切り替えるが、ゴードンたちがまだライフルの射程圏に入らぬ遠い距離にいるというのに、性能の悪い火縄式銃の弾を撃ち尽くしてしまう始末だ。そうこうするうちにも、今度はトルコ人たちが谷間を轟々と揺らす叫びを上げて突進し、勢いの衰えた攻撃などはものともせず、馬の耳元をかすめて発砲を繰り返した。

 こうなっては、まばらな射撃ではもはや彼らの勢いを止めることは不可能だ。大恐慌のなか、部族民たちはもはや抵抗するすべを失っているのだが、トルコ人たちは火縄式銃、マスケット銃が空になるまで攻撃の手をゆるめなかった。いくばくかのライフル銃が、侵入者を迎え撃ち、そのうちの何発かは敵を馬上から撃ち落とした。またひとしきりの矢が更に少数の敵を犠牲にした。だが、やがては突進する攻撃の前に、間に合わせの防御壁は打ち破られ、馬のひづめでもみくちゃにされてしまう。荒々しい叫びを上げたトルコ人たちがテントの並ぶ一角に馬を乗り入れ、すでに朱に染まった半月刀を右に左に打ち振るうのだった。

 突如として、〈オルドゥー〉が生き地獄に包まれたようだ。士気をなくした遊牧民はやすやすと破れ去り、あとは侵略者たちに斬り倒され、踏み潰されるのを避け、全力で逃げるしか術はなかった。流血に酔ったトルコ人は、女子供といえども情け容赦はしなかった。戦闘の輪を抜け出て、小川の方へと泣き叫びながら走るものたちがいる。するとすぐさま、その後を狼のような騎馬戦士が追いかけていく。

 それでも、死の恐怖に取りつかれた女子供の群れは、一足はやく岸辺にたどり着く。あとはもうヤナギの間にちりじりに広がってゆき、泣き叫びながら低い川岸を下ると、互いに身をひしぎあいながら水の中に突っ込んでいくのだ。トルコ人たちが川辺に馬を到着させるより先、体全体に汗をしたたらせ口泡を噴いた馬とともに、ゴードンが到着した。

 理由なき大虐殺に激怒したゴードンの姿は、まさしく凶暴な復讐神の化身さながら。彼は先頭を進む馬の馬勒を掴み取るや、荒っぽい仕草で馬の臀部を後ろに押し戻す。たまらず馬はバランスを失い、横ざまに倒れ込み、乗り手を地面に放り出してしまう。次に来た男は、逃げ去った人の群れを探し、狼じみた唸り声を発している。ゴードンは半月刀の側面をしたたかにその男に叩きつけた。厚みのある毛皮帽のお陰でなんとか頭蓋骨が砕けるのは免れたが、男は意識を失い鞍から転げ落ちた。残りの男は叫び声を発し、慌てて手綱を引き締めた。

 ゴードンの激怒する様子は、まるで氷のように冷たい水をその顔に浴びたかのごとく彼らに驚きを与え、血に餓えた激情すら一瞬にしてどぎまぎする感情へと変化していった。テントの間からはいまだ叫び声が上がり、夕刻の空にこだまし、屠殺のように無情な剣が振り払われているさまが目に浮かぶようだが、ゴードンはそちらに注意を向けることができない。喚き散らす戦士が、原型を止めぬまでにテントを切り裂いている、荷馬車をひっくり返している、そこら中に松明を放り投げている――略奪し尽くされたキャンプ――ゴードンにはもうどうすることもできなかった。

 鮮血のしたたる剣を手にした、燃える瞳の男どもが、次から次へと小川に向け押し寄せてくる。だが立ち塞がるエル・ボラクの姿を目の前に、誰もそこから先へは進むことができなかった。今この瞬間のゴードンの恐ろしさに比べれば、どんな悪漢といえども足元にも及ばない。その唇が恐ろしげにめくり上がり、その眼は地獄の業火の黒炭さながらの様相を呈していた。

 この態度は決して見せかけではない。感情を押し隠した仮面は今や剥げ落ち、その下から原始の獰猛さを秘めた生の魂が姿をあらわにしたのである。呆然とするトルコ人、いまだ殺戮の欲求が満たされた興奮から覚めやらず、しかしさすがに大襲撃で疲労の色も隠せない。そんな男たちがゴードンの態度に当惑し、その身をひるませている。

「誰が攻撃しろと命令した!」彼は叫んだ。その声はまさにサーベルの一撃のように、男たちの間に響いた。ゴードンは激情のあまり、身を震わせている。今の彼はまさに憤激と死とをもたらす一個の燃える炎――支配することも制止することもできない。この瞬間、未開の地に棲む狂暴このうえない蛮族さながら、あるいは獰猛な野獣さながら、ゴードンの姿は残忍に映った。

「ウズン・ベッグが!」との叫びが十も二十も起こり、男たちは一斉に、苦虫を噛み潰したような顔の戦士を指さした。「奴が言うには、あんたがこっそり逃げていき、キルギス人どもにおれたちを売ったという話だった。だからおれたちは、あいつらが押し寄せ取り囲まれるより先、先手を打って攻撃を仕掛けただけだ。あんたがあの斜面を駆けてくる姿を見るまでは、ずっとウズン・ベッグの言うことを信じていたんだ」

 獲物に襲いかかる豹にも似た、言葉にならぬ獰猛な唸り声を上げたゴードンが、嵐の如くに馬をウズン・ベッグに突進させるや、半月刀を一閃させた。己の身に何が起きたのかを理解する暇もなく、頭蓋骨を打ち砕かれたウズン・ベッグが鞍から転げ落ちた。

 エル・ボラクが残りの男たちに向き直る。男たちの背筋を恐怖が這い登り、じりじりと馬を後ずさらせる。

「犬め! ジャッカルめ! 鼻の利かぬ猿野郎め! 神に呪われてしまえ!」ゴードンの言葉は、まるで蠍の毒にように男たちを容赦なく責めたてる。「おまえたちなど、卑しいろくでなしの子だ! おれは隠れて待てと命じなかったか? おれの言葉は風のように軽いものなのか――ウズン・ベッグのような犬野郎の息に吹き飛ぶ葉切れとでも思っているのか? こんなところで必要もない流血沙汰を起こしおって。すぐに国中のキルギス人がジャッカルのように押し寄せてくるぞ。さぁ、貴様たちの当てにしていた略奪品とやらを見せてみろ。荷馬車いっぱいに黄金が積み込まれているはずじゃなかったのか?」

「黄金はなかった」と、剣の刃から血を拭い取っている一人が、ぼそぼそと言った。

 ゴードンの吠えるような笑い声に込められた残酷な軽蔑と激情とに、男たちは思わず尻込みしてしまう。

「この犬めらが、地獄の糞の山でも構わず鼻を突っ込む強欲者め! おれはもう知らん。ここで勝手に死ぬがいいさ」

「奴を殺せ!」一人が小さく叫んだ。「おい、みんな、このまま異教徒の世話になるつもりか? 奴を殺して、元の場所へさっさと戻ろうじゃねえか。こんな荒れ果てた土地に、略奪品なんぞ期待したのが間違いだったんだ」

 男の提案は、お世辞にも歓迎されたとは言えなかった。自分たちのライフル銃はどれも弾切れだったし、中には剣を振るうのに熱中するあまり、銃をどこかになくしてきた者までいる。一方、エル・ボラクの膝下に吊られたライフル銃、のみならず腰の拳銃にも、弾が装填されていることを彼らは知っていた。そうでなくとも、下手に飛び込んでいけば、彼の右手であたかも生き物のように揺れ動く、血に染まった半月刀の刃の餌となるのが落ちだ。

 男たちが躊躇する様子を見て取り、ゴードンは更に彼らを嘲った。彼は他の男のように、口論やら議論やらで時間を無駄にはしなかった。もしもそんなことをしようものなら、たちまち殺されるはめになっていたことだろう。彼はただ悪態をつき、口汚く罵倒し、脅しの言葉を吐いた。そうすることこそ、この男たちを納得させるのにもっとも効果的な手段であることを知っていたからだ。相手は狼のような集団で、そんな彼らだからこそ、ゴードンこそが最も残忍な狼であることを知っていた。結局、彼らはゴードンに屈服するより他はなかったのである。

 彼が生き抜いてきたのと同じ苦境に立ち向かえる人間など、千人に一人もいないであろう。とにかくこのゴードンという男には、人を圧倒する絶大な力が備わっており、その力をもって最良の決断をひねり出し、相手の激情すらくじいてしまうのだった――その力とは、例えば堰を切った激流や吠えすさぶ激風の如くに、真の獰猛さに裏打ちされ、どんな相手であろうとことごとく粉砕してしまうのだ。

「これ以上あんたと一緒に過ごすのは、もうごめんだ」大胆ぶって言う声が、精一杯の抵抗だった。「あんたはあんたの道を進むがいいさ。おれたちはおれたちで勝手にやらせてもらう」

 ゴードンは痛烈な笑い声を鳴り響かせた。「おまえの行く道には、地獄の炎が待ち受けているだろう!」と嘲りの声。「おまえたちはここで、流血沙汰を起こしてしまった。この血の代償は高く付くぞ。きさまら、考えてみなかったのか、誰か一人でも逃げ延びた人間がいて、近くの部族に逃げ込み、この国中が戦いののろしを上げる結果になると? 夜明けが来る前に、何千人という復讐者が立てるひづめの音が、おまえたちの耳にも届くことだろうな」

「はやいとこ東に向かおう」と、一人が神経質に叫ぶ。「奴らが気付く前に、この悪魔の土地を離れりゃいいんだ」

 再びゴードンは笑いを響かせ、男たちを震え上がらせた。「愚か者! 無事に帰れると思っているのか。おれはこの双眼鏡で、馬に乗った集団がおれたちの後を追っているのを目にしているんだ。おまえたちなど、獲物を狙った牙から逃れられぬ。しかも、おれがいなければ一歩も先に進めないと来た。ここで相手を待ち受けるか、それとも戻るか――どちらにしたところで、明日の太陽を拝める奴は一人もおるまい」

 そうなると反抗するどころの騒ぎではなく、すぐさま男たちを恐慌が襲った。

「奴を殺してしまおう!」ある者が喚く。「奴がおれたちを罠に誘い込みやがったんだ!」

「馬鹿を言うな!」と叫んだのは、ゴードンが浅瀬に連れて行った五人のうちの一人、オルカーン・シャー。「キルギス人を攻撃するよう仕向けたのは、彼じゃない。彼は約束通りに、おれたちを略奪に導こうとしていたのだ。彼はこの土地に詳しいが、おれたちはそうじゃない。ここで彼を殺すことは、おれたちを救う唯一の男を殺すことだぞ!」

 すぐにけたたましい喧騒に火が付き、男たちはゴードンのまわりに押し寄せ喚きはじめるのだ。

「あんたの知恵を貸してくれ! おれたちゃ、残飯を食らう犬だ! おれたちの犯した罪から救ってくれ! なんでも命令に従う! この死の場所から連れ出して、あんたが約束したお宝を拝ませてくれ!」

 ゴードンは半月刀を鞘に納めて、何も言わずに指揮を取る。彼が命令を下し、男たちがそれに従う。こうした野性の男どもは、ひとたび彼に頼ると決めるや、例えそれが恐れからといえども、絶対的に彼を信頼した。彼らとて、ゴードンが己の目的を果たすために、無遠慮なまでに自分たちを利用しようとしていることには気付いていた。しかし、そんなこととは関係なく、実際彼ほど有能な人間は、仲間のうちには一人としていなかったのだ。こんな野性に満ちた土地では、狼集団の掟だけが通用するのである。

 できるだけ多くのキルギス人の馬が、すみやかにひととこに集められた。その背に、襲撃を受けたキャンプから運び出された食物と衣類とがあわただしく積み込まれた。トルコ人側の死者は六人で、同じく六人ほどの人間が瀕死の重傷を負っていた。亡骸は、彼らが死んだ場所にそのまま放置された。特に酷い深手を負った者が、鞍に結び付けられた。彼らの呻き声が、夜の空に不気味に響く。すっかり気力を失った集団が、斜面を越え、小川を横切る頃には、あたりはすっかり暗闇に包まれていた。厚い茂みに隠れたキルギス女どもの泣き叫ぶ声だけが、地獄に堕ちた霊魂の上げる哀歌の如く、闇夜に響いていた。

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